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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)701号 判決 1966年6月23日

上告人(被告・控訴人) 南亀封

被上告人(原告・被控訴人) 吉永静雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

原判決の引用する第一審判決によれば、上告人が被上告人に支払った所論金員については、上告人において弁済充当をしたか或いは上告人と被上告人間において弁済充当の合意がなされた旨を判示しているものであることは判文上窺える。それ故、所論民法四八九条違反の主張は理由がない。その余の論旨は、事実審の適法にした事実の認定を非難し、またはその認定に副わない事実関係を主張し、これを前提として原判決の違法をいうものであって、採るを得ない。

同第二点について。

原判決の引用する第一審判決は、本件手形金支払の請求に対し、上告人から反対債権の存在を主張して相殺の抗弁をなし、その証拠として所論乙九および一三号証を提出したのに対して、右各書証は上告人主張の反対債権の存在を証明する証拠となり得ないとして、その理由を呈示しているのである。右反対債権の存在を否認する理由となるべき事実はいわゆる主要事実にあたるものではないから、右事実の認定が、被上告人の主張と一致しない点があるからといって、所論のように民訴法一八六条違反とは認められない。なお、右の事実認定は、挙示の証拠に照らし是認し得るところであり、その間に所論の違法はない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

上告人の上告理由

第一点原判決は民法第四百八十九条、第五百三十三条、第五百五十五条、第五百七十三条各条に背反したものである。

上告人は昭和三十六年十一月十日被上告人から月賦販売の方法によりダイハツ自動三輪車一台を代金四十一万円にて買受くる事とし即時頭金として九万円を支払って自動車の交付を受くると共に額面二万円の約束手形十六枚を振出して残代金三十二万円の支払に充てたが右自動車の所有権は最終支払に充てた手形金の支払完了と同時に之を移転すべく約した。

上告人は爾後右振出しに係る約束手形は其の満期日に夫々支払を完了したのである。

然るに被上告人の事務員内村幸子は右手形金の集金に付上告人が振出した手形を持参することなく金員受領の都度「預り証」なるものを発行交付して手形を返還せず従って右上告人振出しの約束手形は被上告人の所持下に残留し同人は之を奇貨として本件訴を提起したものであり、此の事実は右内村幸子の原審に於ける証言の一部と乙第七、八、九、十、十一、十二各号証の存在並其の記載内容並に甲第八号証中昭和三十七年五、六、七、各月分の手形が中断して支払われて居ないのに同年八月、九月、十月迄は夫々支払ずみになって居る事実によって之を明認することが出来る、然らば右集金人内村幸子の集金は右上告人振出の手形金に付てのものではなくして自動車の売掛代金の月賦集金である(約束手形は呈示したる上之と引換へに金員を受領すべきものであるから)民法第四百八十九条には債権充当の方法を定めたが右上告人の売掛月賦金に付ての受領金員の充当は右法律の規定に違反して為されたものであり、之を看過して為した原審判決は違法である。

上告人は手形金相当額を被上告人に支払ずみである。従って被上告人は前記自動三輪車の所有権を移転する義務がある。仮に被上告人主張の如く代金の(従って手形の)未払が残存したとしても右代金の支払完了と同時に右自動三輪車の所有権移転の手続を為すべき義務がある。即ち同時履行の関係に在る本件に上告人に対する自動車の所有権移転手続履行と引換へに非ずして只上告人に対し一方的に代金、従って約束手形金の支払を命じた原判決は前記民法の諸条項に違反したもので到底維持することの出来ないものである。

双務契約たる本件自動車の売買に付上告人のみは代金全額の支払を義務づけられ、其の目的物に付ては単に使用貸借に基く使用権を有するに過ぎないと為すは売買の法理に反し著しく社会取引の通念に反するのみでなく衡平の観念に反する原判決は速に取消さるべきである。

第二点原判決は民事訴訟法第百八十五条及び同第百八十六条に違反して為された違法がある。<以下省略>。

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